実の親や祖父母から住宅を取得するための資金の贈与を受ける場合、一定の金額まで贈与税が非課税になる制度があります。この仕組みを使うと、ある程度まとまった金額を非課税で支援してもらうことができます。
住宅購入時に親から贈与を受けた場合 贈与税が非課税になる制度
住宅購入時に親から贈与を受けた場合に、贈与税が非課税になる制度「直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税特例」、「相続時精算課税」について説明します。
直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税特例
ここでは、直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税特例について解説します。
2023年12 月31日まで間にマイホーム取得のために父母や祖父母などの直系尊属から金銭の贈与を受けた場合、最高1,000万円までの金額について、贈与税が非課税になる制度です。この制度を利用するには、一定の要件を満たす必要があります。
受贈者の要件
贈与される人(受贈者)の主な要件は、以下の通りです。
- 贈与者直系の子や孫であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること(2022年4月以降の贈与の場合)
- 贈与を受けた年の所得税に係る合計所得金額が2,000万円以下(家屋の床面積が40m2以上50m2未満の場合は1,000万円以下)であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充ててマイホームを所有すること(持分を有しない場合は対象外)
建物の要件
建物の要件は、新築と中古で異なります。主な要件は以下の通りです。
新築の場合
- 家屋の登記簿上の床面積(マンションの場合には、その区分所有する部分の登記簿床面積)が50m2以上240m2以下である(合計所得金額が1,000万円以下なら40m2以上240m2以下)
- 家屋の床面積の1/2以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものであること
- 贈与の翌年3月15日までに居住していること、又は居住することが確実に見込まれていること
中古住宅の場合
上記新築の場合の要件に加えて、以下3つのいずれかを満たすものが対象になります。
- 新耐震基準に適合する住宅(1982年以降建築の住宅は適合しているとみなす)
- 新耐震基準をみたすことが証明された住宅
- 購入後に耐震改修工事を行い、贈与を受けた年の翌年3月15日までに一定の耐震基準に適合すると証明された住宅
その他の要件
贈与できる財産は、住宅を新築、取得または増改築するための「お金」です。また、この制度を利用するには、届け出が必要です。(贈与を受けた翌年の2月1日~3月15日に申告)
非課税の限度額
2022年1月以降の贈与については、取得した住宅の区分に応じて非課税限度額が決まります。
良質な住宅 | 一般住宅 |
---|---|
1,000万円 | 500万円 |
良質な住宅とは、以下のいずれかに該当するものです。
- 耐震等級2級以上または免震建築物
- 断熱等性能等級4または、一次エネルギー消費量等級4以上
- 高齢者等配慮対策等級3以上
その他
普通の贈与(暦年課税)の非課税枠110万円と、贈与額の非課税特例の仕組みを併用することができます。たとえば、贈与額の非課税特例における限度額が1,000万円の場合、110万円を加えた、1,110万円まで非課税で贈与を受けることができます。夫婦それぞれが、ともに実の両親から贈与を受けると、2人合わせて最大2,220万円までの贈与を非課税で受けることができます。
●注 : 東日本大震災の被災者の場合、2023年12月31日までの贈与について、非課税限度額が上乗せされることがあります。
●2022年4月の法令に基づいています。
相続時精算課税
相続時精算課税制度は、相続の一部を前倒しで行う仕組みです。生きているうちに子供に贈与した財産は、親が死亡したときの相続財産に加えて、相続税額を精算します。
贈与者の要件
贈与する人には、以下の要件があります。
- 贈与される人の親や祖父母であること
- 贈与をした年の1月1日時点で60歳以上であること
●ただし、2023年12月末までは、住宅取得資金に限り、60歳未満でも贈与できます。
受贈者の要件
贈与を受ける人(受贈者)には、以下の要件があります。
- 贈与する人の直系の子や孫であること
- 贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上であること(2022年4月以降の贈与の場合)
非課税の限度額
「生前の贈与額の累計額」が2,500万円までは贈与税は非課税となります。ただし、生前贈与額分は相続時の課税対象となり、相続税で精算します。
贈与額が「非課税額」を超えた場合は、(贈与金額-非課税額)×20% の贈与税を支払います。
他の制度との併用
この制度は「直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税特例」と併用して使うことができます。二つの制度を併用することで、多額な支援が可能になります。
注意点
この制度を使うと、普通の贈与(暦年課税)の基礎控除(年間110万円)を使用することができなくなります。その後の贈与分は、贈与者が亡くなるまで相続時精算課税制度を活用することになり相続財産に合算されることになります。これは一度選択すると変更できないので注意が必要です。
●2022年4月の法令に基づいています。
【参考】住宅購入時に贈与税がかかる場合の計算方法
普通の贈与(暦年課税)は、親以外の誰からでももらうことができますが、贈与された金額が1年間(1月1日から12月31日まで)で合計110万円を超えると納税義務が発生します。翌年の2月1日~3月15日の間に税務署に贈与税の申告をし、納税をしなければなりません。
贈与税額は次の式で求めることができます。
贈与税額 = 課税価格(贈与財産-110万円) × 贈与税率 - 控除額
■実の親または、祖父母から贈与を受ける場合の贈与税(●)
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~200万円以下 | 10% | - |
~400万円以下 | 15% | 10万円 |
~600万円以下 | 20% | 30万円 |
~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
●贈与を受ける者は、その年の1月1日現在で18歳以上の者(2022年4月以降の贈与の場合)に限ります。
●兄弟間や夫婦間の贈与、子の配偶者や18歳未満の子(2022年4月以降の贈与の場合)へ贈与する場合などは、計算式が上記とは異なります。
実の親から1,000万円の資金援助を受けた場合の贈与税額を計算してみましょう。
贈与税額 = (1,000万円-110万円) × 30% - 90万円= 177万円
1,000万円の贈与を受けると、177万円の贈与税を支払わなければなりません。 つまり、1,000万円の贈与を受けても、実際に手元に残るのは、823万円ということになります。
住宅購入時に贈与以外で資金の援助を受ける方法
親子間融資
親からの支援には「もらう」以外にも「借りる」方法があります。
「親からお金を借りるのだったら、金融機関で住宅ローンを組むのと同じことでは?」という疑問があるかもしれません。しかし、親子間の融資は、金融機関から借りるよりも圧倒的に有利です。
なぜなら、金融機関とのローン契約に伴うさまざまな手数料が、親子間だとかからないからです。返済期間や金利も比較的自由に設定することができます。
ただし、金利を0%にすると利息分が贈与とみなされてしまいます。また、「あるとき払いの催促なし」にすると全額が贈与とみなされ贈与税の対象になる可能性があります。
親子間融資の注意事項
親子間で融資を行う場合は、贈与とみなされないように以下のことに注意してください。
「借用書」を作成し、両者が署名押印して保管しておく
「借用書」には次の項目を明記
- 借入額
- 金利
- 返済方法
- 毎月の返済額(または年に何回など)
- 支払回数
- 返済開始日
など
返済は、銀行振込みなど、確実に履歴が残る方法にする
親が住宅の一部を購入する
親の援助で自己資金を増やす方法ではなく、親に住宅の一部を購入してもらう方法もあります。
この場合、親のお金で購入することになるので、住宅は親との共有名義にします。登記をするときの持分の割合は、実際に負担した資金の割合に応じて設定します。実際に負担した金額の割合と異なる割合で登記をすると、負担した金額と持分の差が贈与とみなされ、贈与税の課税対象となりますので注意が必要です。
総費用
次の例で持分割合を計算してみましょう。
マンションの物件価格 | 4,000万円 |
---|---|
諸経費 | 200万円 |
資金負担
夫の自己資金 | 400万円 |
---|---|
夫名義の住宅ローン | 2,400万円 |
妻の自己資金 | 200万円 |
夫の父の資金 | 1,200万円 |
それぞれの持分割合
夫の持分割合 = (400万円+2,400万円)/(4,000万円+200万円) |
妻の持分割合 = 200万円/(4,000万円+200万円) |
夫の父の持分割合 = 1,200万円/(4,000万円+200万円) |
●上の例で、夫が父から1,200万円の贈与を受ける場合、あるいは借りる場合は、 夫の持分割合が(400万円+2,400万円+1,200万円)/(4,000万円+200万円)となり、父の持分割合は0になります。
「直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税の特例」や「相続時精算課税制度」を利用して贈与を受ける場合は、税務署への申告手続きをする必要がありますが、親と共有名義にする(親が直接住宅の一部を購入する)場合は、贈与ではないためそれらの手続きは必要ありません。また、共有名義で住宅を購入し、親が出資した分を親の持分とすることで、親から借り入れをする必要がなくなります。将来親が亡くなった際は、親の持分は子どもが相続することになります。
ただし、その子どもに兄弟姉妹がいるときには、相続時に遺産分割のトラブルになる可能性がありますので、あらかじめ十分に検討して親が負担する金額を決める必要があります。
ここでは、住宅購入時に親から受けた贈与を非課税にする要件や、贈与以外で支援を受ける方法についてまとめました。「住宅取得資金贈与の非課税特例」にはさまざまな要件があるため、不明点など詳しくは、税務署に確認しておくとよいでしょう。