ファイナンシャルプランナー
北野 琴奈さんに聞く「コンパクトマンション購入ガイド」
北野 琴奈さんKotona Kitano
ファイナンシャル・プランナー(日本FP協会認定 CFP®認定者)
ワインエキスパート(日本ソムリエ協会認定)
1974年 北海道生まれ。
津田塾大学卒業後、会社員を経て独立。
実践型FPとして資産運用、不動産投資・賃貸経営、
キャリアなどに関する講演、執筆、コンサルティング等を行う。
賃貸と購入どちらが
お得ですか?
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求めるライフスタイルは個人により違いが非常に大きいため、単に数字だけで測ることはできません。今後の人生においてライフプランを考えた時に、何にどのくらいのお金をかけるのか、ご自身にとって満足度の高い使い方を考慮に入れて、購入or 賃貸を検討する必要があります。
購入する場合のメリットは、なんと言っても構造・設備が充実した家に住むことができ、部屋の内装やレイアウト、リフォームなどある程度好きなようにできる※2ということでしょう。
逆にデメリットとしては、ローンが長期に続くことや状況に合わせて簡単に引越ししにくいことが主な点として挙げられます。
一方、賃貸のメリットとして大きいのは、住み替えの自由度が高いことです。
ライフスタイルや家族構成に合わせて柔軟に住まいを替えていくことが可能ですし、その時々の家計状況も考慮して選ぶことができるのも魅力でしょう。
デメリットは、家を自分の好きなようにすることは難しいということ、終の棲家がないというメンタル面で不安定さがあることです。
「数字だけの比較はできない」とはいえ、検討の際数字を抜きにはできませんね。あくまで参考としてですが、具体的な金額を挙げてみましょう。ひとつの目安としていただければと思います。
まずは、30年間の比較です。
【前提条件】
・賃貸物件:東京都内の中古アパート・マンション(30~40㎡)を想定
・購入物件:東京都内の新築コンパクトマンション(30~40㎡)を想定
- 賃貸の場合(例え)
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家賃・共益費 11万円(月額) 更新料 引越し時を除き2年に1回(11万円) 引越し 10年に1回(引越し代・退去費用・仲介合わせて40万円) 30年でかかる総額 = 4,210万円程度
- 購入した場合(例え)
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物件価格 諸経費込4,000万円 自己資金 600万円 ローン 3,400万円、金利年約1.3%、返済期間30年(元利均等) 毎月返済額 11.4万円 総返済額 4,110万円 固定資産税・都市計画税、
管理費、修繕積立金年40万円 30年でかかる総額(自己資金+ローン返済+ランニングコスト) = 5,910万円程度
※上記のお借り入れのためには、ご年収等の一定の条件を満たす必要があります。
※金利は2016年4月1日現在のものです。
※金利変動が無く、一定の場合を想定して試算しています。
単純に30年で比較すると購入の方がお金がかかるように思われるかもしれませんが、30年後はローン返済が終了し、毎年かかるコストは税金と管理費、修繕積立金くらいになります。
トータル50年間の比較はしてみるとこのようになります。
- 賃貸:2,450万円程度
(前提条件は先ほどと同様) - 購入:800万円程度
(ランニングコスト)
トータル50年間の比較は、
- 賃貸6,660万円
- 購入6,710万円
基本的に購入は、長く住めば住むほど賃貸で居続けるよりも金銭的にはメリットが出てくる傾向があります。ただし築40年、50年ともなると、大規模なリフォームやあるいは建て替えも視野に入ってきますから、そこにどの程度のお金をかけるのかにより収支の比較は変わります。
上記は、あくまでひとつの例です。ローンの金利や返済期間の前提が変わると総額にも大きく影響しますので、ご自身の場合で実際に試算してみることが大切です。
また子どもが独立した後、夫婦二人の生活になった場合、住み替え(売却して新たに購入する、賃貸に変える等)を検討する方も少なくありません。特に若い世代の方は今からそんなに先のことまで考えられないという方も多いと思いますが、選択肢のひとつとしてあるのだということは頭の片隅に置いておいてもよいでしょう。
マンション購入時や
購入後にかかるお金について
教えてください。
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まず購入時に必要な金額の目安は一般に、物件本体の金額に加え、新築は3~7%程度、中古で6~10%程度と言われています。
4,000万円の住宅の場合、新築120~280万円、中古240~400万円程度の諸費用を見積もっておくということです。
この諸費用の主な内容としてはこちらです。
- ・印紙税
- ・固定資産税・都市計画税精算分
- ・登記関係費用(不動産登記、抵当権設定登記)
- ・修繕積立基金
- ・ローン保証料
- ・火災・地震保険料
- ・不動産取得税
(厳密には、購入後半年~1年後くらいに支払い) - ・仲介手数料
- ・家具購入、引越し費用
要件を満たす新築の場合、税制の優遇が受けられる等、諸費用に関しては一般に新築の方が少なくなる傾向があります。
また基本的に新築では不要の仲介手数料は、中古住宅購入の際には必要です。(中古でも売主から直接購入の場合は不要)金額は、「物件価格の3%+6万円(別途消費税)」が上限となっており、諸費用の中で占める割合は小さくありません。
この他、売買契約時に売主に支払う「手付金」の存在も覚えておきましょう。
上記の諸費用とは異なり最終的に購入価格の一部にはなりますが、ローンではなく自己資金で用意する必要があり金額もある程度になるため、予め確認しておいた方が良いでしょう。通常は購入価格の5~10%程度となっていますが、個々の案件により異なります。
購入後にかかるお金については、毎月(毎年)必要となる主なものとして以下が挙げられます。
- ・ローン返済
- ・管理費
- ・修繕積立金
- ・固定資産税、都市計画税
その他毎年ではありませんが、 数年毎に更新が必要となるのが火災・地震保険料です。
また不定期にはなりますが、築年数が経つにつれ居室の設備故障にかかる修繕・交換費用も心積もりしておいた方が良いでしょう。
私の年収で都心の
コンパクトマンションを
買えるのでしょうか?
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マンション購入の可否は、皆さんそれぞれの資金計画によって決まります。一概にこうとお答えすることは難しいため、ここでは基本となる考え方をご説明しましょう。
コンパクトマンションに限らず、マイホーム購入を検討する際には、自分がどのくらいお金を借りられるのかを金融機関などで試算してもらうと思います。
その際に提示される「年収の○%程度までOK」、「試算では△万円までローンを組めます」というのはひとつの目安にはなりますが、多くの場合、皆さんのライフスタイル・生活の優先順位まで考慮したものではないことに注意が必要です。
住宅ローンを検討するにあたっては、「どのくらい借りることができるのか?」という基準ではなく、「自分が住まいにかけられる金額はいくらか?」という各々の状況に基づいた視点を持ちましょう。
一つの目安となるのは現在のご自身の状況です。それぞれ実際の金額を出し、購入後に考えられる支出額と比較、検討します。
(引越しや経年に伴う修繕など不確定要素については、一旦「仮定」として数字を挙げてみましょう。)
- 現在、住まいにかけているお金
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- ◇毎月・・・家賃、共益費、住宅購入のために貯蓄している金額
- ◇2年に一度程度・・・更新料
- ◇不定期・・・引越しの際にかかる費用(退去時清掃等費用、新居の礼金、仲介手数料、引越し代等)
- マイホーム購入後にかかるお金
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- ◇毎月・・・ローン返済、管理費、修繕積立金
- ◇毎年・・・固定資産税・都市計画税
- ◇数年毎の更新・・・火災保険料・地震保険料
- ◇不定期・・・経年等によって発生する修繕費
両者が同程度であれば購入した後も当面はやっていける可能性が高く、乖離が大きい場合は資金計画の見直しが必要です。
加えて、中長期的な視点も持ちましょう。人生の中で「住」の他に考えるべき大きな支出には、リタイア後の生活費と子供の教育費がありますから、その分の貯蓄も考慮に入れ住まいにかけられる金額を算出する必要があります。
ご参考までですが、リタイア後に必要な金額はご夫婦おふたりで3,000万円程度(シングルの場合はこの7割程度で考えます)、子供一人当たりの教育費は1,000万円程度(全て国公立の場合)という統計もあります。
最近は、独身の女性がコンパクトマンションを購入するケースも見受けられます。
将来、結婚などにより売却や賃貸にすることも考えられている場合は特に、立地や利便性、管理体制の良さなどといった資産価値の落ちにくいものという視点も持って選びたいところです。
新築マンションと中古マンションと
リノベーションの
メリット・デメリット、
選択する際の注意点は?
新築の主なメリットは、
- 「未居住」の魅力
- 税制・ローンの優遇を受けやすい
- 瑕疵担保責任が10年
一方、デメリットは、
- 価格が高め
- 「新築プレミアム」がなくなった後の値下がり
新築はなんといっても、「住むのは自分たちが初めて」という気持ちの満足度が高く、一定の人気があります。日々感じる満足感は、生活を送る上では大切なことです。
しかしながら価格が高騰した場合、新築にこだわるのであれば、立地や利便性、広さなどにおいて、妥協点を決めていくことになるでしょう。
また全ての住宅に当てはまるわけではありませんが、中古になった瞬間に価格が下がることがある「新築プレミアム」分にも注意が必要です。
中古の主なメリットは、
- 新築に比べ価格が抑えられる
- 「新築プレミアム」がない
- リフォームなどをしやすい
一方、デメリットは、
- 構造・耐震性への不安
- ローンの制限
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中古の大きなメリットは、やはり価格の安さでしょう。その分、立地や環境といった点にも目を向けられそうです。
ただどうしても築年が古いことで、構造や耐震性についての不安は出てきますから、専門家に建物の調査を依頼するのも選択肢のひとつです。
また、通常新築では10年の瑕疵担保責任がつきますが、中古の場合は数ヵ月といったことも多いのです。最近は保証期間が1年~5年程度の瑕疵保険も出てきているので、併せて検討することもできます。
ローンについても同様です。以前は中古の場合は難しいケースもよくありましたが、耐震基準や省エネルギー性能等を向上させることで、可能になることも増えてきています。
中古の中でも、ここ数年台頭してきたリノベーション。築年が経過した古い家の構造だけを残し、配管・配線等も含め通常のリフォームよりも大規模な改修を行います。
新築よりも価格が抑えられることに加え、自分好みの居住空間をつくることができるということで、特に若い世代の方に人気があります。
ただし中古住宅を購入してご自身で計画を立てる場合は、当初の予算以上にコストがかかってしまう場合も少なくありませんから、より綿密な資金計画が大切です。
加えて、住宅購入後にリノベーション計画を立てるのではなく、両者同時に行うことも意識しましょう。建築構造等の関係で、途中様々な制限が出てくる場合もあるため、双方に確認しながら併行して進めていきます。
このような段取りを自分で手掛けるのが難しいと感じる方は、既にリノベーションされた住宅を購入するケースも増えています。
自身のオリジナルというわけにはいきませんが、時間と手間をあまりかけられない方はそちらを選ぶ場合も。
マイホーム購入は、個々の嗜好、予算、事情、ライフスタイルなどによって何を選択するかが変わってきます。最適な住宅は、お一人お一人により異なります。
ご自身が望むことと実際にできることを一度整理し、どのような形が一番合っているのかを考えてみると良いでしょう。
なぜ資産価値を
考える必要があるのですか?
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将来、売却や賃貸を行う場合、立地や利便性、希少性等、市場における「資産価値」が売却価格や賃料に影響するからです。
もっともマイホームに関しては、毎日の生活の中で「資産価値」を意識することはあまりないでしょう。せいぜい、ニュースで不動産市況についての話しが出る時くらいだと思います。
通常は、何らかの理由で売却の可能性がある場合等に調べ始めるという方が大半ではないでしょうか。
仮に4,000万円のマンションを、ローン3,600万円(金利1.3%、30年元利均等返済)で組み購入した場合を考えてみます。
10年後の価格が購入時の①90%、②70%になったとすると、それぞれ①3,600万円、②2,800万円です。
一方、10年後の残債は2,550万円となります。
この状況で売却した場合、①②ともに売却価格は残債以上なので、手元資金の持ち出しはありません。ただし②については売却時の諸経費も入れると手残りはあまりないと思われます。(購入時の自己資金まで含めて考えると②はマイナスです。)
一方①の場合は多少手元に残ると思われるので、次の住宅購入の頭金にも使えそうです。
このような視点で考えると、資産価値も考慮に入れて検討するのもひとつでしょう。
もちろん、売却は考えておらず一生保有するつもりの方もおられるはずで、その場合は必要性を感じないかもしれません。
ですが、長い人生においては想定外のことが起きる可能性も十分考えられます。いざという時に慌てずに済むように、ある程度は気に留めておいても良いはずです。
マンションを購入された方の
タイミングは?
また何が決め手になる
傾向が多いですか?
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皆さんのお話しを伺っていると、購入のタイミングは大きく2つに分けられると感じます。
ひとつは、ご自身のライフプランにのっとったもので、結婚、子供の誕生・成長、就学、独立、リタイアといった何らかの区切りです。生活パターンが変わる機会に、一度住まいも見直そうと考える方が多いようです。
もう一方は、外的な周りの環境によるものです。例えば、金利低下、物件価格の上昇(今を逃すと、いつ買えるかという思い)、会社の寮がなくなるなどということから、検討→購入という流れです。
もちろん、いくつかの要素がからむケースも多く見受けられます。
子供が小学生になりマイホーム購入に興味を持ちつつあった状況で、金利低下が追い風となり購入に到った、などという形ですね。
購入の決め手は、価格や地域、駅からの距離、生活(教育)環境、利便性等に加え、最近は「資産価値」を重視する声も増えています。
当然、駅からの距離や生活環境なども資産価値に含まれるのですが、それらが自分だけではなく、他の人にとっても「価値」として高いのかどうかという客観的な視点も大切にしているということです。
「マイホーム購入=終の棲家」ではなく、様々なライフイベントを区切りとした住み替えも視野に入れて購入を検討する方が多くなっているため、資産価値を重視する風潮があるのだと思われます。